「あの会社は能力を適正に判断してくれなくて給料も上がらないから転職したんだ」
なんていうのは、サラリーマンの転職の理由なんかとしてもよく聞く話ではあります。
しかし、業界全体として「能力を適正に判断してくれる環境がない」という課題を抱えているのが、建設業界です。
その問題を解決すべく導入されたのが「建設キャリアアップシステム」というものです。
名前は聞いたことがあるけれどイマイチよくわからない、登録することで結局何かしらデメリットがあるのではないか、となかなか利用に踏み出せない方もいるのではないでしょうか。
今回は、「建設キャリアアップシステム」というものについて、メリットやデメリットなども含めてご紹介したいと思います。
建設キャリアアップシステムとは?
「建設キャリアアップシステム」とは、技能者の就業履歴や保有資格の情報などを業界統一のルールでシステムに蓄積するというもので、2019年4月から本格的な運用が始まりました。
データの蓄積には技能者に配布するICカードが利用され、技能や経験に応じた適正な評価や処遇が受けられるようになります。
この「建設キャリアアップシステム」の導入の背景には、建設業界の人手不足という問題があります。
建設業の就業者はピーク時から見ても減少し続けています。
特に労働人口の中の34%が55歳以上という高齢化も深刻です。
29歳以下は11%ほどで、なんと年配のベテランに対して若手が半分もいない状況となっていて将来を担う若者の働き手がとにかく少ないのです。
では、なぜ建設業界には若手が少ないのでしょうか。
その理由の一つに、賃金の低さが挙げられます。
賃金の見直しや社会保険への加入の取り組みなどはこれまでにも行われてきましたが、いまだに賃金は低いのが現状です。
“建設業界=ブラック”
ということを説明したネット記事なども見られる状況で、もちろんどの会社もブラックというわけではなく従業員を大切にして働きやすい環境を作るために努力しているところもたくさんあるかと思います。
それでも、今の若手を確保したいとなると、その若手がネットでいろんな情報を入手する世代でもありますので、建設業界を一括りにしてブラックな業界と評価した情報が目立ってしまうと、なかなか厳しいところもあるかもしれません…。
また、賃金が低いために頑張って待遇をアップしたいと思ってスキルアップを目指しても、業界全体での統一的な評価がないので適正に判断されず、なかなか能力に見合った賃金アップが実感出来ないのもかもしれません。
そのために若者にとって建設業界自体を魅力的な業界だと思うことができず、若手の技能者が業界を離れてしまったり、新しい人材が業界に入ってこないという状況に陥っているのです。
そして、そんな状況を打破するために導入されたのが「建設キャリアアップシステム」というわけです。
「建設キャリアアップシステム」に登録すると、
・技能者の本人情報
・保有資格
・社会保険加入状況
・現場での就業履歴
などを蓄積した「建設キャリアアップカード」が交付されます。
これは建設業界共通のICカードで、システムに登録することで、
・能力や経験に応じた処遇が受けられる
・働く環境が整備されるため、将来の担い手が確保できる
・管理や人材育成の効率化ができる
・事業者にとっても生産性が向上する
などのメリットがあります。
建設業界は他の業界と比べても離職率が高いと言われており、いろんな企業で経験を積むために統一的な評価がされにくいという問題がありますが、
「建設キャリアアップシステム」に登録すれば“業界”統一のルールで適正な評価がされるため、自分の能力や経験に見合った処遇が受けられるということなのです。
また事業者にとっては管理や育成の効率化というメリットだけではなく、優秀な人材が自社にいることがわかりやすくなるので、たとえば元請け企業へのアピールに繋がるとも考えられています。
建設キャリアアップシステムのICカードの申請方法は?
ではカードの申請はどのような手続きの方法があるのかを1つずつお伝えします。
まず、3つの方法があります。
・インターネット
・郵送
・窓口
いずれかの方法で行うことができ、技能者は運転免許証など本人確認に必要な書類の写しを提出し、本人確認をした後にシステムに登録されます。
インターネット申請の場合
申し込み・登録料の支払い
⇩
確認・審査
⇩
登録完了
の手順となります。
窓口が近くになかったり、窓口に書類を持っていくことが難しい方の場合は郵送で申請することができます。
手順の流れは、
申請書の取り寄せ
⇩
申請書への記入・登録料の支払い
⇩
簡易書留で申請書を郵送
⇩
確認・審査
⇩
登録完了
の手順で申請ができますが、郵送代は申請者の負担となります。
一方、技能者登録において写真付きの証明書がない場合は、窓口でのみ申請可能となります。
窓口申請の場合の流れは、
申請書の取り寄せ
⇩
申請書への記入・登録料の支払い
⇩
窓口に提出
⇩
確認・審査
⇩
登録完了
の手順となります。
どの申請方法でも、だいたい2週間ほどで建設キャリアアップカードが手元に届く予定です。
郵送・窓口申請の場合の申請書は専用封筒に封入することになっていますので、注意が必要です。
建設キャリアアップシステムにはデメリットはあるの?
「建設キャリアアップシステム」に登録することによるデメリットについては、まだ導入から日が浅いこともあり大きな問題点は発見されていないようですが、強いて言うなれば、
・登録や利用にお金がかかる
・優秀な人材が引き抜かれるのではないかという懸念
・システムにログインができない、などの利用におけるわずらわしさ
などが挙げられます。
1.登録や利用にお金がかかる
まず、「建設キャリアアップシステム」への登録などにはお金がかかります。
技能者は、システムへの登録やカードの発行費用として
・インターネット申請の場合:2500円
・郵送・窓口申請の場合:3500円
がかかります。
また、カードを紛失したり破損したりしてしまった場合の再発行費は1000円かかります。
元請け企業や下請け企業は、事業者登録料やシステム利用料がかかります。
事業者登録料は一人親方の場合は無料ですが、その他の場合は資本金ごとに異なり、
資本金が500万円未満→新規・更新料:3000円
資本金が500万円以上1000万円未満→新規・更新料:6000円
資本金が1000万円以上2000万円未満→新規・更新料:12000円
と、資本金に応じて11段階で新規・更新料が設定されており、
最大で資本金が500億円以上→1200000円となっています。
また、管理者ID利用料が1IDにつき2400円、現場利用料が就業履歴1回につき3円かかります。
システムの開発や運営には当然お金がかかりますので無料での提供は難しいことは充分に理解できますが、こうして見てみると便利なのかもしれないけど何かとお金がかかるかも?という印象も受けます。
ただこの点は、技能者にとっては適正な処遇が受けられるなどの後々のメリットに繋がることを思えば必要な先行投資とも考えられると思います。
優秀な人材が引き抜かれるのではないかという懸念
次に、優秀な技能者の引き抜きに対する懸念についてです。
技能者の能力などが統一的なルールによって蓄積され、ある種見える化されることで、「建設キャリアアップシステム」が優秀な技能者の引き抜きに繋がってしまうのではないか、という心配の声も上がっています。
将来の担い手を確保するために導入されたシステムによって優秀な人材が引き抜かれ、事業者自体が困ってしまうとなってしまっては元も子もありませんよね…。
これについては対策として、蓄積された情報は技能者本人とその所属業者、両方からの同意がなければ他の建設業者からは見えないような仕組みになっているようです。
結局は同意があれば見られるということなので、120%引き抜きに繋がることはないとは言えなさそうにも思えますが、勝手に見られて引き抜かれるというような心配はないようです。
システムにログインができない、などの利用におけるわずらわしさ
これは、建設キャリアアップシステムのホームページにおけるQ&Aを見ても分かる通り、
・建設キャリアアップカードが届かない
・システムにログインができない
・パスワードを間違えてしまってロックがかかってしまった
というような問い合わせも多く、人によっては登録や利用が複雑でわずらわしく感じてしまうこともあると思います。
登録したほうがいいと聞いたから登録したけど、ログインもできないし使い方もよくわからないと、問い合わせなどに無駄に時間がかかってしまうこともあります。
お金もかかることなので、事前にできるだけ使い方や仕組みなどを詳しく調べて、理解してから登録した方がいいかもしれません。
建設キャリアアップシステムに関する説明への参加もおすすめ
ここまで「建設キャリアアップシステム」についてご説明してきましたが、他にも細かい情報は国交省のホームページや「建設キャリアアップシステム」のホームページで確認することができます。
ただ、掲載されている文章を読むだけでは不安という方もいらっしゃるかと思いますので、そうした方はぜひ説明会に参加するのもおすすめです。
説明会では、ホームページを読むだけでは理解しきれないような部分の話も聞くことが出来るようです。
説明会の開催情報の確認や参加申し込みは、「建設キャリアアップシステム」のホームページから行うことができます。
北海道や埼玉、東京、愛知、福岡などの会場によっては満席になっているところも多くありますが、会社の所在地に関係なくどの会場にも参加できるようなので、少し遠くはなってしまいますが隣の県の説明会に参加することもできます。
人によってはわざわざ他県へ出向いて説明を聞いてまで導入するメリットのあるシステムなのか、と思ってしまう人もいそうですが…。
これからもしかしたら、建設業界に入ってくる若手にとっては「建設キャリアアップシステム」を導入している=社員を適正に評価する意欲のある企業という指標になる可能性もあるのではないでしょうか。
そうであれば、システムを導入して適正に評価する環境を整えています、という企業のアピールにもつながり、より優秀な人材を確保できるかもしれません。
個人的には、満席になる会場も現れるほど業界から注目されているシステムなので、早いうちからしっかり説明を聞いて少しでも把握しておいて、今は利用する予定がなくてもいつでも導入できる準備をしておいて損はないものだと思います。
建設キャリアアップシステムの背景とデメリットは?問題点や将来性もまとめ
国交省はとしては登録率100%を目指しているようですが、現実的には難しいのではないかとも言われています。
強制ではないので全ての事業者が本当に登録するとは今のところ思えにくく、その場合、システムに登録した人と登録していない人に待遇の差が生まれてしまうのではないかというのも心配です。
たとえばですが、システムに登録しているAさんがその蓄積情報を元に適正な処遇が受けられたとして、登録していないBさんはAさんよりもっと優れた能力や経験の持ち主であるにも関わらず、システムに登録していないことでAさんより処遇が悪いなんてことも起こりかねないのでしょうか。
それを避けたいのであればシステムに登録すればいい、という話かもしれませんが、
そのためにも適正な処遇が受けられる、事業者にとってもいろいろなメリットがあることをしっかり全ての事業者・技能者に知ってもらうことが大切ですね。
今回の記事も最後まで読んでくださってありがとうございました^^
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